☆☆☆

　都内で発生している連続女性絞殺事件は、世の中では「真夜中の絞殺魔事件」と呼ばれていた。この件に関して警視庁捜査一課の桜井が、天久鷹央を訪ねてきた。今年に入って３人の女性が被害に遭っているが、４年前にも同様の事件が起こっていた。今年の事件に関しては犯人の皮膚が発見されており、ＤＮＡ鑑定の結果４年前の犯人と同一と思われる。しかし４年前の事件の犯人は既に亡くなっており、その死亡宣告をしたのは天久鷹央だったと言う。

　天久鷹央と小鳥遊優のシリーズ８作目で、長編作品である「事件カルテ」のシリーズでは３作目です。連作短編の「推理カルテ」のシリーズはもう書かないのでしょうか。どちらも同時に進めて欲しいんですけどね。さて女性を狙った連続絞殺事件ですが、今年に入って３人の被害者が出ています。４年前にも３人の被害者が出ているのですが、その犯人と思われるのは春日広大と言う男でした。これは事件現場に残された物のＤＮＡ鑑定で判ったのですが、広大は４年前に亡くなっております。自分が行った死亡宣告に何らかの間違いがあった疑いから、この事件に取り組む事になった天久鷹央と小鳥遊優。亡くなったのは広大とは別の人物ではないのか。広大には秘密の兄弟がいたのではないのか。広大の母が入信していた新興宗教の「癒しの御印」は、霊能療法で何らかの薬で仮死状態にした人間を生き返ったようにみせていたのか。いろいろな推理が展開されていきますが、犯人が出した犯行声明等から鷹央は犯人を罠に賭けます。ＤＮＡ鑑定に関するある事がポイントになるんですが、こんな事って本当にあるんでしょうか。

☆☆

�@　「ホスト狩り」　．．．　歌舞伎町でホストが連続して襲われる事件が発生。怪我をして入院している病院で銃撃事件が発生。
�A　「万引き犯」　．．．　カメレオンと呼ばれる万引き犯が、万引きした高額な化粧品とかを売りさばいていると言うのだが。
�B　「失踪」　．．．　歌舞伎町のホストを食い物にする熟女の昏睡強盗。そして行方不明になった２５歳の息子を探す両親。
�C　「潜熱」　．．．　理事長が射殺された事件はなかなか解決せず、その病院では何かと良からぬ噂が立っていると言う。

　夜の署長シリーズの３作目。１作目は東大法学部を出て新人刑事となった野上健次の視点で語られましたが、２作目は刑事見習いの村上沙月で、本作は古城（こしろ）美沙巡査部長の視点で描かれます。この様に語る人物が代わっていくのに、代わらないのは夜の署長と呼ばれるベテラン刑事の下妻晃警部補のみ。千人の警察官を抱える日本最大の警察署である新宿署、夜間でも５０名近い当直者がいるとの事。当直責任者は課長クラスの警部ですが、彼等は往々にして現場経験が少ない。そこで事件発生の折に力を発揮するのが、古城の上司である下妻です。４作から成る連作短編形式で描かれますが、新宿医科大学付属病院の理事長射殺事件が一貫して取り上げられます。病院内で起こった医療過誤、病院内での力関係、安楽死に関する考え方。いろいろな問題が浮かぶ上がってくるのですが、これらは古城や下妻の活躍の場がある様には思えませんでした。と言うかそもそも、下妻自体が夜の署長と言えるほどの存在感が感じられませんでした。

☆☆☆☆

　翠明大学日本史学科の室田教授に呼ばれた天久鷹央と小鳥遊優は、陰陽師の呪いについて調査を頼まれる。平安時代を専門にしている室田は、蘆屋炎蔵と言う一人の陰陽師に興味を持ったと言う。その炎蔵の墓が鎌倉にある事を知り、３週間ほど前に４人でその墓の調査をしたと言う。その内の室田ともう一人の教授である碇が体調を崩してしまい、そしてもう一人の准教授は火事で焼死したとの事だった。これは炎蔵による呪いではないのかと。

　事件カルテ・シリージの４作目では、何とあの鴻ノ池舞が大活躍します。と言っても小鳥遊をおちょくると言う部分では無く、愛車ＫＡＷＡＳＡＫＩ Ｚ１０００を駆って犯人を追い込みます。それとともに彼女の隠された能力も存分に披露されます。でも彼女の愛車は残念な事になってしまいますが、小鳥遊の愛車であるＲＸ−８も燃えてしまいます。二人の車とバイクは次回からどうなるんでしょうか。ちなみに小鳥遊の方も後半何時にない活躍を見せます。さて陰陽師に関する呪いと言うのが本作のテーマなのですが、陰陽師に関しては小鳥遊同様私も良く判ってはいません。今野敏さんの作品などに良く出て来るんですけどね。飛鳥時代に天武天皇によって陰陽寮が設置され、暦の作成・天文気象の観測、卜占等が行われていました。陰陽師と言うのはこの陰陽寮の中で卜占を行う公務員だったんだそうです。でも正式に認められた陰陽師とは別に、陰陽術を使う私度僧である法師陰陽師もいたとの事。本作で登場するのは平安時代中期に活躍した、蘆屋炎蔵と言う法師陰陽師です。炎蔵は優れた呪詛師で、多くの人を呪い殺したと言います。その呪い殺し方と言うのが火で燃やすと言う物です。炎蔵の墓を暴いた３人の学者が、焼死したり死体が燃やされたりします。この謎に関しては綺麗に解明され、小鳥遊の推理もなかなか決まっています。

☆☆

�@　「幽霊」　．．．　川崎市中原区でクリスマスの日に発見された記憶喪失の男。新たに戸籍を作りたいとの申し出があった。
�A　「待ちわびて」　．．．　７年前に失踪した歯科医をしていた夫の妻からの失踪宣告。ウキウキしたような態度に引っ掛かりを。
�B　「スケッチブック」　．．．　義理の父親による性的虐待を娘が訴えた事から、母親が申し立てた離婚調停が始まった。
�C　「引き金」　．．．　６５歳になる女性が長年暮してきた夫と別れたいと言う。昔夫がした浮気がきっかけになったと言う。
�D　「再会」　．．．　川崎で銭湯を経営している夫と別れて実家の山形で暮す女性。夫と暮らす二人の子供に逢いたいと言う。
�E　「キツネ」　．．．　息子は自分の子供では無かった。自分を騙し続けてきた妻に対して慰謝料を請求しようとする男性。
�F　「はなむけ」　．．．　離婚の調停を申し出てきた女性。二人の子供がいるのだが、二人とも揃って鑑別所にいると言う。

　「家裁調査官・庵原かのん」シリーズの２作目です。前作では北九州の家庭裁判所で少年犯罪を担当していた庵原（いおはら）かのんですが、今回は川崎の家庭裁判所に異動しております。それに伴い今までは遠距離恋愛だった中学時代からの同級生である栗林（くりりん）と、つい最近入籍したばかりです。住まいは北品川の賃貸マンションです。栗林は動物園勤務で、ゴリラの担当をしています。そんなかのんが担当する事になったのは、今度は少年事件では無く様々な事件です。記憶喪失の男の戸籍取得、失踪している男の死亡認定、義理の父親からの性的虐待、離婚調停だとか。どれも嫌な話ばかりです。どの話も最初に家庭裁判所に提出された何らかの書類が掲載されているのですが、必ずしもその内容の話になっていない物もあります。またずっと話が続いていた既に離婚が成立している男性の話だとか、遺産分割で揉めている家族の話とか、何か変な終わり方をしているのも気になります。またこれらの話はコロナ禍の中での出来事として描かれているので、緊急事態宣言だとかマスク着用だとかちょっと懐かしさ感じてしまいました。

☆☆☆☆

�@　「桜の季節の遺言状」　．．．　製薬会社の社長をしている男から妻への電話。その後夫は家の近くでトラックに撥ねられ亡くなった。
�A　「ドッペルゲンガーの研究室」　．．．　殺人事件を捜査している刑事。自分のせいで容疑者の男が自殺してしまい責任を取らされた。
�B　「呪いのタトゥー」　．．．　ボランティアでアフリカに行っていた恋人が帰国。すっかり変わってしまった彼は、呪いのタトゥーの話を。
�C　「魂のペルソナ」　．．．　全ての事件の犯人は、そして麻矢に憑りついている記憶喪失だと言う魂は誰の物なのだろうか。

　人間は命を失うと、肉体に閉じ込められていた「魂」が解放される。その魂を「我が主様」のもとまで導くのが「道案内」の仕事。でもまれに未練を持って地上に縛り付けられた魂があり、何とかそれを説得し救う任務を受けた天使と言うか死神のお話。前作の「優しい死神の飼い方」ではレオと言う名の犬でしたが、今回はクロと名付けられた猫です。連作短編風に描かれますが、１編の長編作品として捉える方が自然かもしれません。ミステリー度の高いファンタジー作品。レオがホスピスで奈穂と言う相棒と出会う様に、今回は記憶喪失だと言う魂が事故で昏睡状態となっている白木麻矢の身体を使う事で、クロの相棒となります。最初の２作で地縛霊となった魂を救うクロと麻矢ですが、そこで描かれるのはある製薬会社に纏わる事件です。会社の会長がトラックに撥ねられ亡くなり自殺とされた事件、そして研究員の妻が殺害され容疑者とされる夫が自殺したとされる事件。それらが後半の２作で解明されていきます。かなり凝った作りになっていますが、判り易いし読み易い。前回のレオも良かったのですが、今回のクロもなかなか個性的です。この２匹のコンビがいい。ちなみに小夜曲（セレナーデ）と言うのは夜に恋人の為に窓下などで演奏される楽曲を指すのですが、モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」等が有名です。

☆☆

　旅行代理店で営業マンをしていた吉村貴生は、気晴らしに出掛けた店で覚醒剤を使用し逮捕されてしまった。仕事も友人も住む場所も失ってしまった貴生は、大田区南六郷にあるシェアハウス「プラージュ」に辿り着いた。家賃５万円、掃除は交代制、仕切りはカーテンのみ、美味しい食事付き。このシェアハウスには朝田潤子、小池美羽、矢部紫織、中原通彦、加藤友樹、野口彰が住んでいたが、住人は何か訳ありの人達ばかりに思えた。

　プラージュと言うのはフランス語で、「海辺」と言う意味なんだそうです。海と陸との境界線。曖昧に揺らぎ続ける、人と人との接点。男と女、善と悪、真実と嘘、愛と憎しみ。そして、罪と赦し。愛の反対って、憎しみではなく無関心だったのでは。さて住んでいたアパートが火事で住む所を失ってしまった吉村貴生。貴生は覚醒剤の使用で逮捕され執行猶予３年の身ですので、簡単に次の住処も探せません。保護司に頼み込んで住まいを見つけられそうな不動産屋を紹介してもらいます。そこで見つかったのが大田区南六郷にある、シェアハウスの「プラージュ」です。１階はお洒落なカフェで、２階がシェアハウスなんですが、部屋にはドアが無くカーテンで仕切られているだけ。ここには６人の男女が暮らしているのですが、何か皆訳ありの人物ばかりです。貴生を始めそんなシェアハウスの住人による物語が綴られますが、ちょっと変わっているのはある記者による章。ある殺人事件に興味を持っていて、その裁判の結果を気にしています。ちなみにこの人だけ名前が明かされません。その殺人事件の真相は、シェアハウスの住人との関連は。まあ人生に於いては「運」と言う物がある意味大きな比重を占めると思いますが、私は運に恵まれていたんだなと言うのが一番感じた事でした。

☆☆

　デリヘル嬢をラブホテルに送り届けた椎名留美は、そこでトラブルに巻き込まれた。中年男が手斧で部屋のドアを叩いていた。何とか男を取り押さえた留美だったが、そのせいで仕事を失ってしまった。その時知り合ったのが、ラブホテルで働いていた橋立和喜子と言う中年の女性だった。彼女は留美が探偵をしている事を知り、ある相談を持ち掛けてきた。２９歳になる一人息子の翼が、五日前から行方不明になっており、その行方を探して欲しいとの事だった。

　山形県で探偵をしている椎名留美を描いた作品で、「探偵は女手ひとつ」の続編です。前作が連作短編だったのに対し、本作は長編作品です。探偵と言っても殺人事件を解明したりなんてのはもとより、人探しや浮気調査と言った仕事さえロクにありません。ほとんど便利屋と言った感じで、さくらんぼの収穫や稲刈り、独居老人の部屋掃除、万引き犯を捕える店内保安員等で糊口を凌いでいます。今年は例年に無く雪が少なく、雪掻きの仕事が無くって困っています。今回もデリヘルの臨時ソライバーをしていた事から、人探しの仕事を引き受ける事になります。行方不明になっている翼と言う２９歳になる独身男は、母親に甘やかされて育っていて何不自由のない生活を送っていました。留美が調べていくと、友人や職場の人間に借金を重ねていて、その取り立てから逃げるための行方不明かとも思えました。しかし彼の部屋から「すこやかパッケージ」と言う、西置市が新１年生に配った学校で使う道具一式が気になります。そこを調べていくと意外な事実が判明し、と言う事なんですがこの結末はちょっとどうでしょうか。また山形弁での会話が判り難いのも難点に思えます。

☆☆

�@　「２０２０年のせいくらべ」　．．．　父さんが「せいくらべするぞ」と言った。築２年の我が家だったのでサインペンではなくエンピツで。
�A　「夜明けまえに目がさめて」　．．．　現在早稲田大学で教師をしている。ゼミ生は４０名なので、４１人目のゼミ生に向けて語る。
�B　「おくることば」　．．．　卒業式が中止になってしまった。だから重松ゼミが年度末に刊行しているゼミ誌のあとがきを。
�C　「反抗期」　．．．　校内ではマスク着用がルールだ。授業中はもちろん、休み時間も放課後もマスクを外すのは禁止されている。
�D　「ステラ２０２１」　．．．　いきものがかりの水野良樹さんが曲を付ける歌の歌詞を、重松清さんが書く事になって。
�E　「星野先生の宿題」　．．．　国語の星野先生が出した宿題は、宇宙人へ送るメッセージだった。言葉は判らないから使うなと。

　「♪暮れなずむ町の、光と影の中、去りゆくあなたへ、贈る言葉」、海援隊の「贈る言葉」です。まあこの唄は全く関係がありません。重松清さんは２０１６年から早稲田大学で教師をしているんだそうです。そして担当しているゼミは、文化構想学部、文芸・ジャーナリズム論系のノンフィクション・創作ゼミなんだそうです。本作は小説とエッセイが混ざっているのですが、ここ最近の社会の動きが中心に述べられています。なかでも新型コロナウイルス関連の話が多いです。私は仕事を定年退職しておりましたので、あまりコロナ禍の影響は受けていません。でも学生とかは大変だったんでしょうね。学校に行けない、行けたとしても数々の制限があって。修学旅行、運動会、文化祭と言った学生時代の中でも一番楽しい事ができなかった訳です。大学生活で言えばゼミだとか卒業論文だとかですが、実は私はゼミ活動をしておらず卒論も書いてはいないんです。一応ゼミとかはあったのですが必修科目では無かったので、取らなかったと言うだけの話です。だからちょっとゼミには心残りもあるんですよね。ですので４１人目のゼミ生への語りである「夜明けまえに目がさめて」が印象的でした。

☆☆☆

　世界各地で発生した過激派勢力によるテロで、多くの被害が発生していた。ニューヨークの国連本部で開かれた臨時総会で日本の新崎百合子総理はテロを非難し、東京で「テロ撲滅世界会議」を開く事を宣言した。怪我が癒えた警護官の夏目明日香は、再び新崎総理の警護を担当する事になった。ＩＳから生まれたＮＩＳ（ニュー・イスラミック・ステート）のアブデル・サゥードは、この会議を異教徒たちの血に濡れた会議にする事を誓った。

　日本初の女性首相である新崎百合子と、彼女の警護に当たる夏目明日香巡査部長によるシリーズ２作目。前作の「官邸襲撃」では、首相官邸がテロリストに襲撃されると言う物でした。今回は対テロの国際会議を行う東京が、テロの標的になると言う物です。今までにいろいろなニュースがあって、映像として残っている物も多いです。そんな中で最も印象に残っていると言うか衝撃的だったのは、２００１年９月１１日（火）に起こった、アメリカ同時多発テロ事件だったでしょうか。イスラム過激派テロ組織アルカイダによって行われた、アメリカに対する４つのテロ攻撃です。旅客機４機がハイジャックされ、その内の２機がマンハッタンのワールドトレードセンターに突入します。この映像はテロの恐ろしさをを如実に物語っていますが、これ以外の自爆テロを始めとする様々なテロの本当に恐ろしい物ですね。全編に渡ってテロの恐怖だとかテロリストの残虐性等が描かれていきますが、ちょっと現実感が無さ過ぎです。これは前作同様ですね。そもそもシークレット・サービスとかは、チームで任務に当たると思います。ですので明日香にしろマットにしろ、個人の行動が際立ってしまいます。小説だからという範囲を越している気がしました。

☆☆☆

�@　「レット・イット・ブリード」　．．．　ヤクザの元から収益金を奪って行った、中国人ギャング達を返り討ちにする仕事。
�A　「デッド・オア・アライブ」　．．．　外国の刑務所を脱走したテロリストが日本に滞在していると言うy。その男を捕える。
�B　「チープスリル」　．．．　有名人を父に持つ女子大生に戦闘訓練を施す。銃の撃ち方を教え格闘技の稽古を付け。
�C　「ファミリーアフェア」　．．．　人生の大半を傭兵として過ごしてきたベテラン社員が、何者かに刺殺されてしまった。
�D　「ダメージ・インク」　．．．　関西の暴力団と揉めている取引先の組に、護衛として送り込まれた有動だったが。
�E　「イーヴル・ウーマン」　．．．　国会議員からの依頼は妹の身辺調査。真面目な学生を演じながら別の顏が。
�F　「ランブリン・ギャンブリン・マン」　．．．　新興宗教施設の地下に造られたカジノ。組織に潜っている警察官の護衛。

　「ＮＡＳヒューマンサービス」は野宮綾子が経営する人材派遣会社です。取引先に送り込むのは、安価な労働者でもなくシステムエンジニアでもない。コンパニオンでも娼婦でもない。元自衛官だったり元警察官だったりと言った特殊な人材を使った、一種の警備会社です。主に描かれるのは有動了慈ですが、習志野の空挺部隊にいた元自衛官です。彼は多額の借金を抱えヤクザと揉めていたのですが、野宮に拾われて危険な仕事を押し付けられています。もう一人は野宮の秘書でありベントレーを運転する、元公安刑事の柴志朗です。主に二人が交互に登場します。またベトナム人で爆弾の専門家である、妙（ビョウ）教官も印象的です。さてヤクザの護衛をしたり、テロリストを捕まえたり、銃や戦闘の訓練をしたりと、危ない仕事ばかりなのですが、やたらと銃を始めとする武器が登場します。日本を舞台にしてこれはどう考えてもおかしい気がします。有動の過去に関しては最後の作品で詳しく述べられますが、野宮に関しては謎だらけです。今後描かれればいいのですが。また「バッドカンパニー」と言うのは、イギリスのロック・グループが有名です。

☆☆☆

　小鳥遊と舞が当直をしていた夜、建物から転落し心肺停止状態の女性が運ばれてきた。救命措置の甲斐無く亡くなってしまったが、彼女が転落したのは１０年以上前に潰れた廃病院だった。ここでは何人もの人が飛び降り自殺をしており、呪いの噂が流れていた。亡くなったのはこの病院の院長をしていた、娘の時山恵子だった。警察は飛び降り自殺としていたが、一人娘の由梨は母が自分を置いて自殺などするはずはないと鷹央に調査を依頼した。

　天久鷹央の事件カルテ・シリージの５作目です。「魔弾の射手」と言っても、ウェーバーのオペラとは何の関係もありません。今回の舞台となるのは、西東京市の丘の上に建てられた時山病院です。この病院は１１年前に起こった医療ミスから、廃院に追い込まれた病院です。時計台がある事から時計山病院と呼ばれ、多くの自殺者が出ており「時計山病院の呪い」等と噂されています。冒頭のプロローグで時山恵子が病院の屋上から転落する場面が描かれますが、胸の真ん中に衝撃を受けた事から転落した事が示唆されます。その後鷹央が季節外れのインフルエンザに罹ったり、愛車のＲＸ−８が燃えてしまったので実家からアクアを借りてきた小鳥遊だとか、スズキのハヤブサと言うバイクをゲットした舞等が描かれます。まあ私もアクアに乗っているのですが、確かに車好きに受ける車ではないですよね。さて時山恵子に続いて兄の文太も同じ様に病院の屋上から転落死し、そしてついには恵子の娘の由梨まで。さて何故この様な出来事が起こったのか鷹央によって解き明かされますが、あまりにも専門的過ぎる謎解きですよね。電流が流れる仕掛けだとばかり思っていました。また鷹央のライバルは今後も登場するんでしょうか。

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�@　「祭りへの誘い」　．．．　タレーランを訪れた二人の男女。一人は因縁の石井春夫でもう一人はイベント運営会社の女性。
�A　「祭りの始まり」　．．．　コーヒーフェスティバルが６店舗の参加で始まったが、内１店舗でフィルターが斬られてしまった。
�B　「祭りは崩壊する」　．．．　タレーランのコーヒーにペット用しつけスプレーが混入。事件の犯人はアオヤマではないかと。
�C　「祭りからの敗走」　．．．　フェスティバル会場から出禁となったアオヤマは、お参りの平安神宮である絵馬が気になった。
�D　「祭りを穢すもの」　．．．　フェスティバル妨害の犯人は１位になる事だったのか、それとも違う目的があったのだろうか。

　珈琲店タレーランの事件簿・シリーズ８作目は、「願いを叶えるマキアート」と題されています。マキアートはイタリア語で「染み」という意味で、エスプレッソにミルクの白い染みがついたように見えたことから名付けられました。さてプロローグで「茨」と「マイカ」と言う、二人の男女の別れのメッセージが描かれます。この二人は誰なのか。さて京都市内にあるイベント運営会社「サクラチル」が、「第１回京都コーヒーフェスティバル」と言う企画を持ち込む所から始まります。コーヒーの消費量と消費金額で、京都市が第一位になっているんだそうです。ちょっとイメージが違いますね。まあ運営会社のネーミングはさておき、６店の珈琲店が参加して行われたフェスティバル。過去に美星達とトラブルを起こした石井春夫が絡んでいるので、だからこそこのフェスティバルに参加を決めた美星。思った通り幾つかのトラブルが起こるのですが、石井が怪しいとも思えますが他の参加者も怪しい。そんな中でアオヤマの不用意な行動が、美星の意外な行動を招きます。二人の関係はどうなってしまうのか。前作が外伝的な話で美星とアオヤマの関係に関しやや不満が残りましたが、本作は別の意味で二人の関係性を素直に受け取れない面もありました。この二人、普通のカップルにはなれないんでしょうか。

☆☆☆☆

�@　「ホワイトラビット」　．．．　有動が高校時代から応援してきた野球選手を、覚醒剤中毒から救い出す仕事を受けたのだが。
�A　「アズ・タイム・ゴーズ・バイ」　．．．　赤坂で売春をしている会社の裏にいるのは誰か。赤坂界隈を根城にしている組か。
�B　「クロスロード・ブルース」　．．．　ＮＡＳで働く事になった国会議員の妹の朝比奈美桜。学生主体の怪しげなパーティーに潜入。
�C　「ノーシェルター」　．．．　暴力団幹部のボディーガード達への戦闘訓練。この中にスパイの殺し屋が混ざっているのかも。
�D　「ブラック・マジック・ウーマン」　．．．　柴志郎は野宮から一人の女性の写真を見せられた。野宮にそっくりな妹だと言う。
�E　「バーサス」　．．．　別れた妻と娘が拉致されてしまった有動。相手は野宮が保護した妹を開放する事を要求している。

　「バッドカンパニー�U」とある様にシリーズ２作目です。有動や柴が所属する「ＮＡＳヒューマンサービス」は、金次第では暴力団からの依頼も受け、犯罪絡みの仕事もこなす人材派遣会社です。日本最大の暴力団である華岡組とは対立関係にあるのですが、この組が分裂の危機に陥っています。名古屋を本拠地にしている琢磨栄が華岡組の５代目に就いて約１５年が経ちますが、かつて神戸をホームタウンにしていた勢力が華岡組を出ようとしています。そしてこの神戸のグループがＮＡＳに仕事を依頼してきたりしています。敵の敵は味方と言う事ですね。そして後半の３作はこの華岡組辛みの出来事が描かれます。そして野宮綾子の過去と言うか正体が明かされます。何と野宮綾子と沙英の姉妹は、琢磨の妾の娘だと言うのです。やたらと銃をぶっ放すのは前作同様ですが、どんでん返しが決まっている１作目と２作目がいいです。また前作で登場した国会議員の娘である朝比奈美桜も、ＮＡＳの社員として活躍します。

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�@　「黄昏飛行」　．．．　ＦＭの番組で紹介したリスナーからの手紙。それを聞いた人から、消息の分からない人だと思うと。
�A　「黄昏飛行　涙の理由」　．．．　今年も行われる幽霊画の展覧会。江戸時代の女絵師の森山桃花が描いた絵が気になった。
�B　「不通」　．．．　知り合った女の子といい感じに。カラオケで故郷を唄ったら泣かれてしまい、それ以来連絡が取れなくなった。
�C　「花散る夜に」　．．．　重い病を治す代わりに一番愛する者の記憶を失ってしまう、マノミの木守りを続けている初音。
�D　「やさしい共犯」　．．．　浪速大学ミステリ研究会の例会。喫茶店で居合わせた４人の男女のトラブルに遭遇して。
�E　「無欲な泥棒」　．．．　関西ミステリ連盟の冬の交流会。実施したホテルの一室が泥棒に遭い、一万二千円が無くなっていた。
�F　「花吹雪」　．．．　おばあちゃんの家の桜は切られてしまった。でもその桜を描いた絵では、桜が咲いて散って行った。
�G　「弥生尽の約束」　．．．　毎年弥生の最後の夜には桜が散るここで集まろう。今年もその約束は守られ続けていたのだが。
�H　「何もできない魔法使い」　．．．　昔、何もできない魔法使いがいた。偉い魔法使いたちから見れば取るに足らない存在だった。

　光原百合さんの作品は数冊読んだ事があったのですが、亡くなっていたとは知りませんでした。２０２２年８月２４日に、５８歳で亡くなったんだそうです。大阪大学時代に推理小説研究会に所属していた光原さんは、デビューする前から綾辻行人さんや有栖川有栖らと面識があり、有栖川さんが追悼のエッセイを載せております。以前「扉守　潮ノ道の旅人」を読みましたが、瀬戸内の港町と言う設定の架空の町が舞台でしたが、光原さんは広島県尾道市の出身なんですね。そちらがファンタジーだったのに対し、最初の３作は同じく潮ノ道を舞台にした作品です。最初の２作はＦＭ潮ノ道で「黄昏飛行」のパーソナリティをしている、永瀬真尋を主人公とした話。持福寺の住職の了斎、ＦＭ局の局長、双子の海斗と山斗らとのやり取りが面白い。「不通」は潮ノ道出身で大阪で大学生をしている狩野悟の話ですが、エリの正体は菅生らの推理通りなんでしょうね。「花散る夜」はミステリーとファンタジーが共存した話ですが、舞台となる場所と時代が特定できないのが面白い。表題作の２作は如何にも新本格の作品ですが、こう言う作品は苦手なので読み辛かったです。まあでも幅広い作品を描く作家さんだったんですね。合掌。

☆☆☆

　医療事故を起こしてしまい働き場所を失ってしまった外科医の九十九勝己は、知り合いの教授からの勧めで神酒クリニックの面接を受けた。見事に面接は合格になりここで働く事になったが、院長の神酒章一郎を始め腕は立つが曰くありげな人達ばかりが集まっていた。ある日大手建設会社の創業者の元を訊ねた九十九達は、末期の膵臓癌を患うこの患者から、自分の息子を殺害した犯人捜しを依頼された。その依頼を神酒が受けた事に、九十九は驚いた。

　外科医の九十九が働く事になった神酒クリニックは、地下鉄の青山一丁目駅から歩いて１０分程の５階建ての巽ビルにあります。院長の神酒章一郎によると特に口が堅くなくてはならず、間違って情報が漏れれば国家レベルの問題になりかねないと言います。面接の後に実技試験と言われたのは、外国との厳しい交渉に当たっている外務大臣の手術の助手でした。そこで執刀した神酒の技術の高さに驚きます。このクリニックには神酒院長の他に、産婦人科と小児科担当の夕月ゆかり、精神科医の天久翼、内科医に麻酔科医もこなす黒宮智人、看護師の一ノ瀬真美がいます。エッ、天久？。天才的な外科医にして格闘能力に優れた神酒、グラマラスなボディにむせ返る様な色気を持つゆかり、人の心を見抜く能力を持つ翼、カウンティングの力で賭けに勝ちまくる黒宮、物凄い運転技術を持つ真美。まあ九十九自身も学生時代に総合格闘技にのめり込んでいて、プロのライセンスも持っていたりします。そんなメンバーで殺人事件の解明に挑みます。メンバーそれぞれの活躍はなかなか痛快なんですが、ちょっとやり過ぎの感じもします。また九十九の医療事故の真相解明にも繋がっているのは出来過ぎ。